アスベストとは

石綿(アスベスト)は、天然に産する繊維状けい酸塩鉱物で「せきめん」「いしわた」と呼ばれています。角閃石(かくせんせき)系石綿と蛇門石系石綿があります。角閃石系の石綿(いしわた・アスベスト)繊維としてはクロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アクチノライト、トレモライト、アンソフィライトの5種類があり、蛇紋石系にはクリソタイル(白石綿)があります。
昔はアスベストの種類がたった3種類しかありませんでした。それがアモサイト、クロシドライト、クリソタイルと呼ばれる物質です。国内で使用された石綿の9割以上はクリソタイルで、残りの約1割をクロシドライトとアモサイトが占めています。平成20年の2月6日に厚生労働省より通達された内容では、新たに3つの石綿がアスベストの規制対象となりました。この通達で新たに対象となった石綿は、トレモライト、アクチノライト、アンソフィライトの3種類です。石綿は、主に耐火・断熱・防音を目的とした建材(吹付け材、屋根材、内・外装材など)として用いられました。

以前はビル等の建築工事において、保温断熱の目的で石綿を吹き付ける作業が行われていましたが、昭和50年に原則禁止さ れました。
石綿は、そこにあること自体が直ちに問題なのではなく、加工や破損のときに空気中に飛び散り人が吸い込むことで肺に長期間にわたって留まってしまいます。
多くのアスベストを吸い込むと徐々に肺の中で累積されていき、何十年も経ってから病気を引き起こします。アスベストはその成分が原因で病気を引き起こすのではなく、その形態が発がん性を持っています。

アスベスト特徴

石綿製品を見ると、石綿繊維らしきものが直径0.5ミリで長さ1ミリ前後の細かい繊維として眼に見える状態があります。
これは直径0.1-1ミクロンの何千本の繊維が「よりあわさって」一本に見えるにすぎません。
1本に見える繊維がほぐれていけば、途中では網目状、木の枝状、シート状等様々な形で存在し、更に別れて1ミクロン以下の直径になるわけです。
石綿繊維は花粉の1500分1の程の大きさしかないのです。

石綿種類

分類 石綿 備考
角閃石族 クリソタイル(白石綿) ほとんどすべての石綿製品の原料として使用されてきた世界で使われた石綿の9割以上占める

角閃石族

クロシドライト(青石綿
アモサイト(茶石綿)

吹き付け石綿として使用されていた。他に石綿セメント高圧管、茶石綿は各種断熱材に使われてきた。

アンソフィライト石綿
トレモライト石綿
アクチノライト石綿
他の石綿やタルク(滑石)、蛇石などの不純物として含まれる。アンソフィライト石綿は熊本県旧松橋町に鉱山があった。
トレモライト石綿は吹付石綿として一部にアクチノライト石綿

石綿が選ばれる理由

  • 耐火性、電気絶縁性、(熱に強い、電気を通し難い)
  • 耐薬品性、断熱性、防音性、(薬品や熱に強く、音を遮断する)
  • 引張性、可撓性、耐摩耗性、(切れにくく、摩擦や摩耗に強い)
  • 加工性、親和性、(加工しやすく、他の材料ともなじみやすい)
  • 経済性(安価である)

アスベストの健康障害

① 石綿肺 潜伏期間15~20年

肺が広範囲にわたって瘢痕化して初めて、石綿肺の症状が徐々に現れてきます。
肺は瘢痕化によって硬くなります。初期症状は、軽い息切れと運動能力の低下です。
石綿肺に加えて慢性気管支炎がある喫煙者では、せきや喘鳴がみられることがあります。
次第に呼吸が困難になり、石綿肺の患者の約15%に、重度の息切れや呼吸不全が起こります。

症状

初期症状として労作時の息切れ、咳、痰が多くみられます。石綿ばく露を中止した後も症状が徐々に進展して呼吸機能の低下も徐々に進み、日常生活に障害をもたらし、在宅酸素療法が必要となります。
また、肺がん、中皮腫、気胸、胸水、気管支炎などを合併することもあるため、注意が必要です

② 肺がん 潜伏期間25~40年

石綿が肺がんを起こすメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、肺細胞に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされています。
また、喫煙と深い関係にあること、また、ばく露量が多いほど肺がんの発生が多いことが知られています。
肺がん発生の最大の要因は喫煙ですが、石綿と喫煙の両方のばく露を受けると、肺がんの危険性は相加~相乗的に高くなることが知られています。
喫煙しない人の肺がんの危険性を1とすると、喫煙者は10倍、石綿ばく露者は5倍、喫煙をする石綿ばく露者は約50倍とする報告が有名です。

症状

臨床的に咳、痰、血痰といった症状がよくみられますが、無症状で胸部エックス線や胸部CT 検査の異常として発見される例も存在します。

③ 悪性中皮腫 潜伏期間20年~50年

肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜等にできる悪性の腫瘍です。
中皮腫のほとんどは石綿ばく露が関係しています。石綿の累積ばく露量が多いほど発症率が高くなりますが、家庭内ばく露や近隣ばく露など低濃度でも発症する危険があります。

症状

胸痛や息切れは、中皮腫に最もよくみられる症状です。
中皮腫は胸壁やその他の近くの構造物へと広がり、ひどい痛み、声がれ、嚥下困難、まぶたの垂れ下がり、腕や手の筋力低下と感覚消失、または腹部の腫れなどをもたらすことがあります。

④ びまん性胸膜肥厚 潜伏期間10年~40年

肺を包む胸膜が線維化することによって呼吸機能が低下する病気です。
通常、肺は柔らかく、呼吸によって膨らみます。しかし、線維化が進行し肺の表面にある胸膜が硬くなると、肺が膨らまなくなってしまいます。
そのため、呼吸が難しくなり、息切れなどの症状が現れます。

症状

びまん性胸膜肥厚の主な特徴としては、初期の病状では無症状が多く、軽度の運動時の呼吸困難のみとなるために病気の発見が難しくなります。
呼吸困難、反復性の胸痛、反復性の呼吸器感染等がみられます。石綿ばく露に関連するびまん性胸膜肥厚は、石綿肺に合併したり、良性石綿胸水の後遺症として生じることが多いとされています

⑤ 良性石綿胸水 潜伏期間数年~数十年

良性石綿胸水は、アスベストを吸入したことが原因で胸膜に炎症が起こり、胸水がたまる病気です。
良性石綿胸水によってたまる胸水は、自然に消滅することがほとんどです。しかし、一度たまった胸水がなくなったとしても、再発を繰り返すことがあります。症状は現れないことが多く、無症状のまま病気が進行するケースも少なくありません。

症状

たとえば、胸水がたまりすぎてしまうと肺が圧迫され、呼吸が苦しくなります。そのため、息切れしたり咳が出たりといった症状が現れることがあります。
また、胸水の多くは、胸膜に炎症が起こるため溜まって来る体液です。胸膜の炎症)が起こると、呼吸したときに胸の痛みが現れることがあります。まれではありますが、強い炎症に伴い発熱する方もいます。

アスベスト(石綿)はどのくらいの量が使われてきたのか

1970年から90年にかけて年間約30万トンという大量の石綿が輸入されており、これらの石綿のうち8割以上は建材に使用されたと言われています。
わが国では、1995年に石綿のうち有害性の高いアモサイト(茶石綿)とクロシドライト(青石綿)の使用等が禁止となり、クリソタイル(白石綿)についても2004年10月に労働安全衛生法施行令が改正され、クリソタイル等の石綿を含有する建材、摩擦材、接着剤の製造等が禁止となりました。
2006年9月以降は、代替が困難な一定の適用除外製品等を除き、石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有するすべての物の製造等が禁止されましたが、2012年3月1日以降は、石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有するすべての物の製造等が禁止されています。
今後は石綿が大量に輸入使用された1970年から1990年頃に建てられた建築物の老朽化に伴い、建築物の解体が増加します。そこで、解体等の工事における石綿のばく露防止対策の一層の徹底を図ることなどの目的から石綿に関して独立した規則として「石綿障害予防規則」が2005年7月に施行され、2006年9月、2009年4月、2011年8月及び2014年6月に一部改正が行われています。また、大気汚染防止法も2014年6月に一部改正されています。

戦後輸入が再開されて以降、石綿の輸入量は960万トン弱に達しました。特に、南アフリカからは、1980年から1993年までの間にアモサイトを18万トン弱輸入しています。

【独立行政法人 環境再生保全機構 抜粋】

主な法令におけるアスベスト含有建材の名称

 

建材の種類

法令 アスベスト含有吹付け材
レベル1相当)1)2)
アスベスト含有耐火被覆材
アスベスト含有保温材
アスベスト含有断熱材
(レベル2相当)1)2)
その他のアスベスト含有建材
(成形板など)
(レベル3相当)1)2)
建築基準法
(所管:国土交通省)
・吹付けアスベスト
・アスベスト含有吹付けロックウール
対象外 対象外
大気汚染防止法
(所管:環境省)
特定建築材料 特定建築材料 対象外
労働安全衛生法
石綿障害予防規則
(所管:厚生労働省)
建築物等に吹き付けられた石綿等 石綿等が使用されている保温材、耐火被覆材等 石綿等
廃棄物の処理及び清掃に関する法律
(所管:環境省)
廃石綿等
特別管理産業廃棄物
(飛散性アスベスト)2)
廃石綿等
特別管理産業廃棄物
(飛散性アスベスト)2)
石綿含有産業廃棄物
(非飛散性アスベスト)2)
発塵性 著しく高い 高い 比較的低い
使用箇所の例 ①耐火建築物、準耐火建築物のはり、柱等の耐火被覆用の吹付け材
②ビルの機械室、ボイラ室等の天井壁等の吸音、結露防止用の吹付け材
①ボイラ本体、配管等の保温材として張り付け
②建築物の柱、はり、壁等に耐火被覆材として張り付け
③屋根用折板裏断熱材、煙突用断熱材
①建築物の天井、壁等に石綿含有成形板、床にビニル床タイル等を張り付け
②屋根材として石綿スレート

注1)建設業労働災害防止協会の「建築物の解体等工事におけるアスベスト粉じんへのばく露防止マニュアル」では作業レベルとしてレベル1~3を分類しているが、便宜的に主な建材の区分としても使用されている。

アスベスト歴史

アスベストは年を追うごとに規制が強くなりました。

  • 1971年(昭和46年)

    特定化学物質等障害予防規則を制定

    製造工場に対して、局所排気装置の設置、作業環境測定の実施などの規制を義務付け。

  • 1972年(昭和47年)

    労働安全衛生法を制定

    特定化学物質等障害予防規則は、同法に基づく規定に。

  • 1975年(昭和50年)

    特定化学部物質等障害予防規則の改正

    石綿含有率が重量の5%を超える吹き付け作業は禁止されました。
    5%未満であれば、吹き付け作業は許容されていました。

  • 1995年(平成7年)

    労働安全衛生法施工令改正、特定化学物質等障害予防規則改正

    クロシドライト(青石綿)アモサイト(茶石綿)の製造、輸入、使用が全面禁止。石綿含有量が1%を越えるものの吹き付け作業が禁止されました。
    1%以下の吹き付け作業やクリソタイル(白石綿)の使用は認可されています。

  • 1997年(平成9年)

    吹付けアスベストを使用している建築物の解体等の作業が、特定粉じん排出作業となり、事前届出、作業基準の遵守が義務付けられる。
    [大気汚染防止法]

  • 2004年(平成16年)

    労働安全衛生法施工令改正

    代替が困難なものを除くすべての石綿製品の製造、輸入、使用が禁止されました。しかし、重量の1%以下を含有するクリソタイル(白石綿)は認められています。

  • 2006年(平成18年)

    労働安全衛生施工令改正

    石綿の含有量が重量の0.1%を越えるものの製造、輸入、使用が禁止されました。

  • 2012(平成 24年)

    石綿及び石綿を含む製品の製造等が全面的に禁止されました。